1.ミズゴケの仲間

(ミズゴケ亜綱、ミズゴケ目、ミズゴケ科、ミズゴケ属、約35種)

「ミズゴケの仲間の概略」
湿原の王者として知られています。湿原だけでなく、年中きれいな水が湧き出る付近にもよく生育しています。保水力があるため園芸によく用いられ、乾燥してパックされたものが園芸店で売られています。

「ミズゴケの仲間の特徴」(体のつくり)
 ミズゴケの仲間は、この仲間だけにみられる特異な形態をしています。茎の先端(頭部)は、多くの短枝がでて丸い房状になっています。頭部から下では茎が伸び、茎の所々から、枝が数本ずつでています。その枝は、横に広がる枝と茎の上に垂れ下がる2通りがあります。葉の形態も、この仲間だけに特徴的です。顕微鏡で葉の中央付近を見ると、大きなサツマイモのような形をした透明細胞が並び、その周りを縁取るように細長い緑色細胞があります。透明細胞は、細胞の中身が無くなって、空洞になっています。また、その表面や裏面には、大小の丸い穴(孔)があいています。胞子体の形態も、他の蘚類の仲間に比べるとたいへん変わっているのですが、胞子体を付けているのに出会うことはまれです。

「観察・同定のポイント」
 多くの種類(35種)が知られていて、特徴がはっきりした種類をのぞき、種類を正確に同定するのは、なかなか困難です。分類形質をきちんと観察する必要があります。

肉眼やルーペでは、植物体の大小、色(緑色か赤っぽくなるか)、枝の長短、太さや曲がり方、枝葉の先端が反り返るかどうかなどを観察します。

顕微鏡では、茎表皮細胞のラセン肥厚の有無、茎葉や枝葉の全形、枝葉横断面の形態、枝葉の孔の状態を観察します。

 ミズゴケ属の種類は、7節に分けられています。このため、種名を同定するためには、まず、どの節の仲間になるかを、きちんと見極める必要があります。

【ミズゴケの観察の仕方】

[準備]
ミズゴケの固まりをほぐして、頭部や枝が付いた1本の茎を取り出します。乾燥させたものでは、茎の1本をまるごと、水につけて、柔らかくなるまで十分にもどします。

[茎の表皮細胞に、らせん状の肥厚(写真)があるかどうか]
ミズゴケ節(最も一般的なオオミズゴケが含まれる)かどうかをチェックするために、最初にまず観察します。
茎の一部(5mm程の長さで十分)をピンセットで折り、顕微鏡下で、茎の表皮(一番外側の細胞)を観察します。

[茎葉の観察]
 水にもどした茎を実体顕微鏡下に置き、茎が乾かないように少し水を差します。頭部と枝をピンセットで取り外します。茎葉は、残った茎上に、まばらに、茎に引っ付くように付いています。1枚ずつをピンセットで取り外し、スライドガラスの上に並べます。

[枝葉の観察]
 ミズゴケの枝は、茎の1箇所から数本でています。実体顕微鏡下で見ると、横に広がっている枝と茎上を垂れ下がる枝があることがわかります。枝葉は、横に広がっている枝の葉を観察します。枝の基部や上部の葉はたいてい小さくなっていますので、中ほどの大きく成長した葉を2本のピンセットを使い、少なくとも、10枚ほどは、取り外します。実体顕微鏡で取り外した葉を観察し、葉の背面と腹面の両方が観察できるかどうかを確かめておきましょう。枝葉の全形、葉身細胞の形態、細胞腔上の孔の状態を観察します。

[枝葉の横断面観察]
 茎から横に張り出している枝を1本取り出します。そのまま(枝に枝葉がついたもの)で、枝の上部から下部に向かって、なるべく薄い横断切片が作れるように、剃刀の刃できざみます。切れたものをスライドガラス上に移して観察します。なお、薄い切片は、剃刀の刃に付着していることがあります。この場合、スライドガラス上に水滴をのせ、剃刀の刃を水滴にしずめると、切片が水滴の中に広がります。

「身近な、分かり易い種」
オオミズゴケ:低地から山地に最も普通の種類です。水辺からやや離れたところで湿った土上に生育します。茎表皮細胞にラセン肥厚がでること、また、枝葉の葉緑細胞は三角形でその底面が腹面側にひらく点で他種と区別できます。

@コアナミズゴケ:水中に生育します。上から見ると枝が湾曲しています。枝葉の透明細胞で、背面に小さな孔があります。

ウロコミズゴケ:一見したところ、オオミズゴケと良く似ていますが、枝葉の先端が顕著に反り返っています。茎の表皮細胞にラセン肥厚はなく、また、枝葉の葉緑細胞は、背面側により広くひらいています。

ホソベリミズゴケ:西南日本に多く生育。生育場所がたいへん特異的で、つねに水がしたたる湿った岩壁上に固まりを作って生育しています。